【第16話】たぬきからの脱出
「おれはカメレオンのメロン。よろしく頼むぜ」 そう言ってぎょろぎょろと目玉を回転させながら、メロンは器用にパイプをくわえなおした。 タキシードと蝶ネクタイを身にまとったその姿は、カメレオンのくせに(なんて言ったらこの世の全カメレオンを敵にまわしそうだが)非常にダンディで、か...
【第15話】たぬきからの脱出
クビになったからといってそのまま家に帰る気にもなれず、ジェリーはふらふらと街をさまよっていた。 あれから何時間経っただろうか。朝食も昼食もとっていないから、腹がぐうぐうと盛大に鳴っている。太陽は既に沈み始め、時刻はおそらく夕刻に近いだろう。...
【小説第14話】たぬきからの脱出
「はいはい。充分に存じております。私は今日でクビ……って、えーーーーッッ?!」 意図せず華麗なノリ突っ込みを披露することになったジェリーは、望月課長のデスクの前に駆け付け、足りない身長でぴょんこぴょんこしながら今にも掴みかからんばかりの勢いで抗議する。...
【小説第13話】たぬきからの脱出
「さ、散々だった……」 押されて揉まれて踏みつぶされて、靴跡だらけのジェリーが勤務先である市役所に辿り着いたのは、業務開始時刻から三十分ほど後のことだった。 「あーー……また望月課長にどやされる……」 ただでさえ万年窓際族として肩身が狭いのに、今月に入ってもう三度目の遅刻だ...
【小説第12話】たぬきからの脱出
例えそれが一人の男の人生を変える大事件の起きた夜でも、時間がくれば無慈悲に明けてしまう。 一晩明けて、今日は雲一つない晴天。 窓からは日の出と共に、明るい日差しが差し込んでいる。 「うー……」 瞼の裏側から突き刺すような光に刺激されて、ジェリーはゆっくりと目を開ける。...
【小説第11話】たぬきからの脱出
「恐らく、謀られたんだろう。まさか、人をたぬきにする方法があるなんて、にわかには信じがたいがな」 「そんなぁ……」 ジェリーは呆然としながら、怒涛のようだった今日一日の出来事を反芻した。 青いワンピースを着た美女、花野舞には下着泥棒と間違われ。...
【小説第10話】たぬきからの脱出
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」 ジェリーは大声をあげてわなわなと震えだす。 「ここっここっこ、これは……?!」 縋るようなまなざしでマスターを見上げると、彼は居た堪れないような表情をして、小さな鏡を差し出した。 「——とにかく、自分の目で確認するといい」...
【小説第9話】たぬきからの脱出
「うー……」 うめくようにあげた声が、こころなしかいつもより少し高い気がした。 重い瞼を無理矢理持ち上げると、かすんだ視界が徐々にクリアになっていく。 背景は、なじみのショットバー「K」。 心配そうにこちらを覗き込んでいるのは坊主頭のマスターだ。 「——んぬぅー……?」...
【小説第8話】たぬきからの脱出
「んぁ~~~? 何ですかな、それはぁー?」 酔いのせいで既に目の焦点が合っていないジェリーが、興味深げに身を乗り出した。 茶色い瓶に、青いラベル。サイズからしても、オロ○ミンCとかリポ○タンDとか、そういったものを想像させる。...
【小説第7話】たぬきからの脱出
「う~~、ヒィック」 間の抜けたしゃっくりを繰り返すジェリーの目は、完全にすわっていた。 「どぉぉ~~~してわたしがっっ!下着ドロボウあつかいされなきゃならないのぉ~~~っ!?」 本日何度目かの問いを、ほとんど叫ぶような口調で投げつける。...