【第16話】たぬきからの脱出
- tanteijelly
- 2016年4月14日
- 読了時間: 3分
「おれはカメレオンのメロン。よろしく頼むぜ」
そう言ってぎょろぎょろと目玉を回転させながら、メロンは器用にパイプをくわえなおした。
タキシードと蝶ネクタイを身にまとったその姿は、カメレオンのくせに(なんて言ったらこの世の全カメレオンを敵にまわしそうだが)非常にダンディで、かっこよくきまっている。
「——よろしく、って、一体何が?」
カッコイイ奴は昔からいけ好かない。
不機嫌そうに半目になりながら、ジェリーは目の前のメロンを疑うようにねめつける。
「ジェリー。おれと組んで探偵をやらないか?」
メロンはそう言いながら、たっぷりと吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出した。
「探偵……?」
この名探偵ジェリーに『探偵をやらないか』なんて、喧嘩を売っているのだろうか。
更に機嫌を悪くしたジェリーに対して、マスターがなだめるように付け加える。
「メロンはIQ150の切れ者だ。きっと瞬く間に事件を解決してくれるぞ」
ダンディなうえに、IQ150とくるか。ますます気に食わない。
「そんで、その天才サンがどうして私と組もうって?」
ジェリーの皮肉げな物言いなど意に介さず、メロンは淡々と告げた。
「君は探偵をしながら人間に戻る方法を探すんだ。おれはその手伝いをする」
思ってもみなかった提案に、ジェリーは目を見開く。
「……どうしてあんたがそんなこと……」
彼の話が事実だとすれば、願っても無い申し出だ。
「いや、しかし……」ともごもご口ごもるジェリーの肩に飛び乗ると、メロンはどうやらにやりと笑ったようだった。
「心配するな。おれはなかなか使える男だぜ」
自分で言うなよ、と思わずツッコミをいれたくなるが、これがハッタリでもなんでもなく事実なのだとしたら、心強いのは確かだろう。
「——そういうわけで、よろしくな。相棒」
耳に心地よい低音ボイスに続いて、耳の横からはすぅすぅという寝息が聞こえてきた。どうやらメロンは、よりにもよってジェリーの肩で眠ってしまったようだ。
「えぇっ?! ちょっと!! 勝手に寝ないでよぉ!!」
情けない声をあげるジェリーに、マスターが笑いかける。
「いいじゃねぇか。メロンの助けがあれば、お前はこれからも『名探偵ジェリー』としてやっていける」
「……」
職を失い、何をどうしたらいいのかさっぱりわからないジェリーにとって、確かにメロンの申し出は渡りに船のように思えた。
「名探偵、ジェリー……」
ジェリーは口の中でゆっくりと、その言葉を反芻する。
「——まぁ、やってみますか……」
どのみち、このままではにっちもさっちもいかないのは確かだ。
ジェリーは肩の上で眠るメロンを横目で見やると、こっそりと心の中で、『よろしく頼むぜ、相棒』と呟いた。
沈みゆく西日によってオレンジ色に染め上げられたショットバー「K」の店内。
この日、この時、この場所で、文字通りの名(迷?)探偵凸凹コンビが誕生した。
彼らは一体これからどのような活躍を見せるのか?
それはまた、別の機会にお話するとしよう。
最新記事
すべて表示クビになったからといってそのまま家に帰る気にもなれず、ジェリーはふらふらと街をさまよっていた。 あれから何時間経っただろうか。朝食も昼食もとっていないから、腹がぐうぐうと盛大に鳴っている。太陽は既に沈み始め、時刻はおそらく夕刻に近いだろう。...
「はいはい。充分に存じております。私は今日でクビ……って、えーーーーッッ?!」 意図せず華麗なノリ突っ込みを披露することになったジェリーは、望月課長のデスクの前に駆け付け、足りない身長でぴょんこぴょんこしながら今にも掴みかからんばかりの勢いで抗議する。...
「さ、散々だった……」 押されて揉まれて踏みつぶされて、靴跡だらけのジェリーが勤務先である市役所に辿り着いたのは、業務開始時刻から三十分ほど後のことだった。 「あーー……また望月課長にどやされる……」 ただでさえ万年窓際族として肩身が狭いのに、今月に入ってもう三度目の遅刻だ...
Comments