【小説第7話】たぬきからの脱出
「う~~、ヒィック」
間の抜けたしゃっくりを繰り返すジェリーの目は、完全にすわっていた。
「どぉぉ~~~してわたしがっっ!下着ドロボウあつかいされなきゃならないのぉ~~~っ!?」
本日何度目かの問いを、ほとんど叫ぶような口調で投げつける。
「そりゃあ……お前が、その、何かよからぬことをやらかしたんじゃないか?」
そんなことを言われたって、事情を知らないマスターは適当にはぐらかすしかない。
「もぉぉぉぉ!!! なんでそんなこというわけぇぇっ?! マスターのあほ~~っ! はげ~~っ!!」
そして本日何度目かになる泣き言と共に、ジェリーはみっともなくぐしぐしと泣きじゃくり始めた。
「ったく……。ジェリー、いい加減にしろよ。そんなんじゃあ仕事に差し障るぞ」
マスターはすっかり呆れ顔で、「明日も仕事だろう」とジェリーをたしなめる。
「うるは~~い! わたしはいまっ! のまねばやってられんのだぁ~~!!」
ろれつのまわらない状態で、どうやって仕事をこなすというのだろう。
「ほっほっほ。飲みっぷりのいいひとは好きですよ」
紳士はそう言いながら、自分の前にあるグラスをくいっと傾ける。
ことあるごとに先客であった彼がそう言ってもちあげてくれるので、今日のジェリーは大変気持ちよーく酔っぱらうことができた。
「あんまり甘やかさないでやって下さい。こいつ、放っておくとつけあがりますから」
「いやいや、私は本当のことを言っているまでですよ」
困ったように言うマスターを飄々といなしながら、紳士は指先で豊かなあごヒゲを撫でる。
彼もジェリーに付き合って相当な量の酒を飲んでいるはずだが、顔色一つ変わっていない。おそらくはかなりの酒豪だろう。
「とはいえ、ジェリーさんをここまで酔わせてしまったのは私の責任でもありますから」
紳士はそう言って、カバンから一本の小瓶を取り出した。