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【第16話】たぬきからの脱出

「おれはカメレオンのメロン。よろしく頼むぜ」

 そう言ってぎょろぎょろと目玉を回転させながら、メロンは器用にパイプをくわえなおした。

 タキシードと蝶ネクタイを身にまとったその姿は、カメレオンのくせに(なんて言ったらこの世の全カメレオンを敵にまわしそうだが)非常にダンディで、かっこよくきまっている。

「——よろしく、って、一体何が?」

 カッコイイ奴は昔からいけ好かない。

 不機嫌そうに半目になりながら、ジェリーは目の前のメロンを疑うようにねめつける。

「ジェリー。おれと組んで探偵をやらないか?」

 メロンはそう言いながら、たっぷりと吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出した。

「探偵……?」

 この名探偵ジェリーに『探偵をやらないか』なんて、喧嘩を売っているのだろうか。

 更に機嫌を悪くしたジェリーに対して、マスターがなだめるように付け加える。

「メロンはIQ150の切れ者だ。きっと瞬く間に事件を解決してくれるぞ」

 ダンディなうえに、IQ150とくるか。ますます気に食わない。

「そんで、その天才サンがどうして私と組もうって?」

 ジェリーの皮肉げな物言いなど意に介さず、メロンは淡々と告げた。

「君は探偵をしながら人間に戻る方法を探すんだ。おれはその手伝いをする」

 思ってもみなかった提案に、ジェリーは目を見開く。

「……どうしてあんたがそんなこと……」

 彼の話が事実だとすれば、願っても無い申し出だ。

 「いや、しかし……」ともごもご口ごもるジェリーの肩に飛び乗ると、メロンはどうやらにやりと笑ったようだった。

「心配するな。おれはなかなか使える男だぜ」

 自分で言うなよ、と思わずツッコミをいれたくなるが、これがハッタリでもなんでもなく事実なのだとしたら、心強いのは確かだろう。

「——そういうわけで、よろしくな。相棒」

 耳に心地よい低音ボイスに続いて、耳の横からはすぅすぅという寝息が聞こえてきた。どうやらメロンは、よりにもよってジェリーの肩で眠ってしまったようだ。

「えぇっ?! ちょっと!! 勝手に寝ないでよぉ!!」

 情けない声をあげるジェリーに、マスターが笑いかける。

「いいじゃねぇか。メロンの助けがあれば、お前はこれからも『名探偵ジェリー』としてやっていける」

「……」

 職を失い、何をどうしたらいいのかさっぱりわからないジェリーにとって、確かにメロンの申し出は渡りに船のように思えた。

「名探偵、ジェリー……」

 ジェリーは口の中でゆっくりと、その言葉を反芻する。

「——まぁ、やってみますか……」

 どのみち、このままではにっちもさっちもいかないのは確かだ。

 ジェリーは肩の上で眠るメロンを横目で見やると、こっそりと心の中で、『よろしく頼むぜ、相棒』と呟いた。

 沈みゆく西日によってオレンジ色に染め上げられたショットバー「K」の店内。

 この日、この時、この場所で、文字通りの名(迷?)探偵凸凹コンビが誕生した。

 彼らは一体これからどのような活躍を見せるのか?

 それはまた、別の機会にお話するとしよう。

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