April 14, 2016

「おれはカメレオンのメロン。よろしく頼むぜ」

 

 そう言ってぎょろぎょろと目玉を回転させながら、メロンは器用にパイプをくわえなおした。

 

 タキシードと蝶ネクタイを身にまとったその姿は、カメレオンのくせに(なんて言ったらこの世の全カメレオンを敵にまわしそうだが)非常にダンディで、かっこよくきまっている。

 

「——よろしく、って、一体何が?」

 

 カッコイイ奴は昔からいけ好かない。

 不機嫌そうに半目になりながら、ジェリーは目の前のメロンを疑うようにねめつける。

 

「ジェリー。おれと組んで探偵をやらないか?」

 

 メロンはそう言いながら、たっぷりと...

April 13, 2016

 クビになったからといってそのまま家に帰る気にもなれず、ジェリーはふらふらと街をさまよっていた。

 

 あれから何時間経っただろうか。朝食も昼食もとっていないから、腹がぐうぐうと盛大に鳴っている。太陽は既に沈み始め、時刻はおそらく夕刻に近いだろう。

 

 まるで死人のような形相で歩くジェリーと、それを遠巻きに見ながら眉間に皺を寄せる街の人々。

 

 むなしい。所詮、自分の人生——いや、たぬき生なんてこんなものなのかと、ジェリーは途方に暮れていた。

 

 

 

 よりどころを求めたジェリーの足は、いつの間にか両替町に向かっている。

 

 辿り着いたのはいつも...

April 11, 2016

「さ、散々だった……」

 

 押されて揉まれて踏みつぶされて、靴跡だらけのジェリーが勤務先である市役所に辿り着いたのは、業務開始時刻から三十分ほど後のことだった。

 

「あーー……また望月課長にどやされる……」

 ただでさえ万年窓際族として肩身が狭いのに、今月に入ってもう三度目の遅刻だし。しかも見た目はたぬきだし。

 

 はあぁ〜〜、と重い溜息をつきながら建物の中に入る。するすると階段を上がって自分のフロアに辿り着くと、肩を縮こまらせながらデスクに向かった。

 

「——おはようございま〜す……」

 

 一瞬同僚の視線が持ち上がって、こちらの姿をとらえた後...

April 10, 2016

 例えそれが一人の男の人生を変える大事件の起きた夜でも、時間がくれば無慈悲に明けてしまう。

 

 一晩明けて、今日は雲一つない晴天。

 

 窓からは日の出と共に、明るい日差しが差し込んでいる。

 

「うー……」

 

 瞼の裏側から突き刺すような光に刺激されて、ジェリーはゆっくりと目を開ける。

 

 昨日のことを思い返しながら、「もしかしてタチの悪い夢だったんじゃあ……」なんていう淡い期待を抱いて、恐る恐る自分の顔を触ってみた。

 

 もふ。もふもふ。

 

 かえってくるのは無慈悲な現実。

 

 やはりジェリーは、目覚めてもたぬきのままだった。

 

 あとは、『時間の経...

April 9, 2016

「恐らく、謀られたんだろう。まさか、人をたぬきにする方法があるなんて、にわかには信じがたいがな」

 

「そんなぁ……」

 

 ジェリーは呆然としながら、怒涛のようだった今日一日の出来事を反芻した。

 

 

 

 青いワンピースを着た美女、花野舞には下着泥棒と間違われ。

 青いトレンチコートを着た紳士には、得体の知れないものを飲まされ、挙句たぬきになってしまうなんて!

 

 

 

「わたしは青が嫌いになりそうだよ……」

 

 ジェリーはそう言いながら、すっかり肩を落としてしょぼくれていた。

 

 マスターはつるつるの頭をかきながら、店内にある小さなソファを顎で示す。

 

...

April 8, 2016

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」

 

 ジェリーは大声をあげてわなわなと震えだす。

 

「ここっここっこ、これは……?!」

 

 縋るようなまなざしでマスターを見上げると、彼は居た堪れないような表情をして、小さな鏡を差し出した。

 

「——とにかく、自分の目で確認するといい」

 

 その重々しい口調が、ことの重大さを物語っている。

 

 ジェリーは恐る恐る、自分の顔の前に差し出された鏡を覗き込んだ。

 

 

 

 ——丸々とした顔。薄茶色の毛。両目の周りをぐるっと囲んだ、こげ茶色のふちどり。

 

 ——それは、たぬきだった。どこからどう見ても、たぬき以外のなにものでもな...

April 7, 2016

「うー……」

 

 うめくようにあげた声が、こころなしかいつもより少し高い気がした。

 

 重い瞼を無理矢理持ち上げると、かすんだ視界が徐々にクリアになっていく。

 

 背景は、なじみのショットバー「K」。

 

 心配そうにこちらを覗き込んでいるのは坊主頭のマスターだ。

 

「——んぬぅー……?」

 

 いつもつっけんどんな彼が、こんな顔をしているなんて珍しい。

 

 そもそも今、何がどうしてこんな状況になっているのだったか。

 

 うぬぅ、と眉間に皺を寄せていると、それに気付いたマスターが常ならぬ大声をあげる。

 

「ジェリー!! 気が付いたか!!」

 

 彼はそう言っ...

April 6, 2016

「んぁ~~~? 何ですかな、それはぁー?」

 

 酔いのせいで既に目の焦点が合っていないジェリーが、興味深げに身を乗り出した。

 

 茶色い瓶に、青いラベル。サイズからしても、オロ○ミンCとかリポ○タンDとか、そういったものを想像させる。

 

「私が見つけた、その日の酔いを次の日に残さない『とっておき』ですよ」

 

 紳士はそう言って意味深に笑った。もはや『その日』でも『次の日』でもないことなど気にならないくらい、とんでもない秘密を隠していそうなとっておきの笑みだ。

 

「味には少々難ありですが、効果はてきめん。これもせっかくのご縁ですから、一本差し上...

April 5, 2016

「う~~、ヒィック」

 

 間の抜けたしゃっくりを繰り返すジェリーの目は、完全にすわっていた。

 

「どぉぉ~~~してわたしがっっ!下着ドロボウあつかいされなきゃならないのぉ~~~っ!?」

 

 本日何度目かの問いを、ほとんど叫ぶような口調で投げつける。

 

「そりゃあ……お前が、その、何かよからぬことをやらかしたんじゃないか?」

 

 そんなことを言われたって、事情を知らないマスターは適当にはぐらかすしかない。

 

「もぉぉぉぉ!!! なんでそんなこというわけぇぇっ?! マスターのあほ~~っ! はげ~~っ!!」

 

 そして本日何度目かになる泣き言と共に、ジ...

April 4, 2016

「ふぅ……さんざんだったな……」

 静まり返った夜の街。

 ぜぇぜぇと肩を上下させながら、ジェリーはようやくショットバー「K」の店先に帰り着いた。

「ったく! こうなったら、飲まなきゃやってらんない!!」

 明日の仕事は何のその。

 遅刻常連窓際公務員であるジェリーに怖いものなどないのである。

 そろそろ店じまいを始めるであろうマスターに、愚痴を聞かせながら飲んだくれてやろう。そう心に決めてドアを開けると、意外や意外。カウンターには先客の姿があった。

「――なんだ、ジェリーじゃないか」

 マスターはそう言って、「お楽しみじゃなかったのか?」とニヒル...

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