ウィスキーの品ぞろえが自慢の隠れた名店・ショットバー「K」。
立派なウォールナット材のカウンターにもたれかかっているのは、この店の常連である一人の男だった。
「フフッ……。それにしても、人気者ってのは罪なもんだねぇ」
右斜め四十五度を見上げながら、恍惚とした表情で男は呟く。
「――そうだな。だが、調子に乗らないほうが身のためだぞ、『井上サン』」
カウンターの内側。男と向かい合わせになるように立った坊主頭のマスターが、穏やかな口調でそれに答えた。
「やだなぁ、そんな他人行儀はやめてよ。いつも通り『ジェリー』でいいからさぁ。――あ、そっか!...